研究授業の指導案をAIで作る5ステップ|たたき台から教材観・評価規準まで
研究授業の指導案の締切が来週に迫っている。とりあえずChatGPTに単元名と本時の目標を渡してみたら、それらしい流れが数分で返ってきた。導入・展開・まとめが表になっていて、体裁も悪くない。
ところが、そこから先が進まない。教材観の欄に何を書けばいいか分からない。評価規準の書き方が去年の自分の指導案と違う気がする。結局、AIが出した文章を眺めたまま、白紙のときと同じ場所で止まっている。
この記事では、AIが出したたたき台を、研究授業で配れる学習指導案まで仕上げる5つのステップを紹介します。プロンプトはそのままコピーして使えます。
AIが数分で出せるのは「授業の流れ」までである
指導案のひな形をアップロードして「この形式で作ってください」と頼めば、体裁の整った略案は確かに出てきます。この使い方はすでに広く知られていて、実際に時間の短縮になります。
問題は、研究授業の指導案で問われているのが授業の流れではないことです。参観する同僚が読むのは、なぜこの教材を選んだのか、なぜこの発問なのか、生徒の何を見て評価するのか、という判断の根拠の部分です。流れの表だけを埋めても、その部分は空白のまま残ります。
AIがこの空白を埋められない理由は2つあります。ひとつは、AIが目の前の生徒を知らないこと。前の単元でどこにつまずいたか、話し合い活動でどのくらい発言が出るクラスかは、教員の側からしか渡せません。
もうひとつは、学習指導要領の記述をAIが正確に持っていないことです。指導事項の文言をそれらしく再現してきますが、原文と一字一句同じとは限りません。指導案に載せる文言としては、そのままでは使えません。
だから進め方は、AIに指導案を書かせるのではなく、書けない部分を先に自分で決めてからAIに渡す、という順番になります。
ステップ1:AIに渡す前に、単元の位置づけを30分で書き出す

最初の30分は、AIを開かずに手を動かします。ここで書き出す情報の質が、以降のすべてのステップの精度を決めます。
書き出す項目は次の5つです。
- 単元の全体像:教科書の単元名、配当時数、本時が何時間目にあたるか
- 既習と未習:この単元に入る前に生徒が学んでいること、まだ学んでいないこと
- 指導事項:学習指導要領のどの指導事項に対応するか(教科書の指導書の巻頭にある対応表を写す)
- 生徒の実態:前単元の小テストの正答傾向、記述問題の書けなさ方、グループ活動での発言量
- 本時で見たい姿:授業の終わりに、生徒がどんな状態になっていてほしいか
このうち指導事項は、必ず指導書か学習指導要領の原文から書き写してください。あとでAIに要約させたり言い換えさせたりしない箇所です。
この30分を省略してAIに投げると、どの学校でも通用する一般論の指導案が返ってきます。一般論を自分のクラス向けに直す作業は、最初から書くのとほとんど変わらない時間がかかります。
ステップ2:条件を全部渡して、たたき台を出す
書き出した情報をまとめて渡します。情報を小出しにすると、AIが足りない部分を推測で埋めてしまうため、一度にすべて渡すのが確実です。
中学校の研究授業用の学習指導案のたたき台を作成してください。
【単元の情報】
・教科/学年:【例「社会科(歴史的分野)/中学2年」】
・単元名:【教科書の単元名をそのまま】
・配当時数:【例「全7時間」】
・本時:【例「5時間目」】
・対応する指導事項:【指導書から書き写した文言をそのまま貼る】
【生徒の実態】
・既習事項:【例「前単元で江戸幕府の対外政策を学習済み」】
・つまずき:【例「資料の読み取りはできるが、複数の資料を関連づけて説明する記述が書けない生徒が多い」】
・活動の様子:【例「4人グループでの話し合いは成立するが、発言が特定の生徒に偏る」】
【本時で見たい生徒の姿】
【例「複数の資料を根拠として挙げながら、自分の考えを説明できる」】
【出力してほしい形式】
1. 本時の目標(1文)
2. 本時の展開(表形式:時間配分/学習活動/指導上の留意点)
3. 主な発問(3つ、それぞれ想定される生徒の反応つき)
指導事項の文言は私が渡したものをそのまま使い、言い換えないでください。
学習指導要領の記述を新たに引用することはしないでください。
最後の2行が重要です。この指示がないと、AIは指導要領の文言らしきものを勝手に補ってきます。原文と照合する手間を増やさないために、引用元となる文言は自分が渡したものだけに限定します。
返ってきた展開表は、この時点では骨格として扱ってください。時間配分と発問は、ステップ5で作り直します。
ステップ3:教材観・生徒観・指導観はAIを「壁打ち相手」にする
ここが略案と研究授業用の指導案の分かれ目です。そして、AIに書かせてはいけない箇所でもあります。
試しに「教材観を書いてください」と頼むと、次のような文が返ってきます。「本単元は、生徒が主体的・対話的で深い学びを通して思考力を育むうえで重要な教材である」。文としては成立していますが、どの単元に貼り付けても意味が通ってしまいます。参観者が読みたいのは、この単元でなければならない理由のほうです。
そこで、AIの役割を書き手から聞き手に変えます。自分の考えを乱暴でいいので言葉にして渡し、質問で掘ってもらう使い方です。
これから私が、研究授業で扱う単元について思っていることを箇条書きで渡します。
文章にはまだなっていません。
あなたは学習指導案の教材観・生徒観・指導観を書くための聞き手です。
私の書いたメモを読んで、次の3つの観点それぞれについて、
「これを書くにはこの点が抜けている」と思う質問を2つずつしてください。
・教材観:この教材を選んだ理由、教材の持つ価値
・生徒観:この単元に向かう生徒の現状
・指導観:現状の生徒に対して、この教材をどう扱うか
質問だけを出してください。文章の代筆はしないでください。
【私のメモ】
【ここに、思いついたことをそのまま箇条書きで貼る】
返ってくる質問は、たとえば「その資料を使うと、生徒のどのつまずきが解消されると考えていますか」「話し合いの偏りは、この教材のどの部分で解消される見込みですか」といった形になります。答えていくうちに、自分の言葉で書ける材料が揃います。
答えた内容をもとに、文章化は自分で行ってください。ここを自分で書いた指導案と、AIが書いた指導案は、研究協議会での質疑への耐久性が明らかに違います。
ステップ4:評価規準をB基準・A基準まで具体化する

平成29年告示の中学校学習指導要領(令和3年度から全面実施)以降、観点別学習状況の評価は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で行います。評価規準の作成方法は、国立教育政策研究所の「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料に教科ごとにまとめられています。指導案に書く評価規準は、この参考資料の書き方に揃えるのが確実です。
AIに「評価規準を作ってください」とだけ頼むと、本時の目標の語尾を「〜している」に変えただけの文が返ってきます。これでは、授業中に何を見ればいいのかが分かりません。
必要なのは、生徒のどんな姿を「おおむね満足できる状況(B)」とし、どんな姿を「十分満足できる状況(A)」とするかの線引きです。この線引きを具体化するプロンプトが次のものです。
本時の評価について整理します。
【本時の目標】【ステップ2で確定した目標を貼る】
【評価する観点】【例「思考・判断・表現」】
【評価方法】【例「ワークシートの記述」】
この観点について、次を出してください。
1. 評価規準の文(「〜している」の形で1文)
2. 「おおむね満足できる状況(B)」と判断できる生徒の記述例を3つ
3. 「十分満足できる状況(A)」と判断できる生徒の記述例を3つ
4. BとAを分ける具体的な違いを1文で
5. 「努力を要する状況(C)」の生徒に、授業中にその場で打てる手立てを3つ
記述例は、実際に中学生が書きそうな文体で書いてください。
抽象的な説明ではなく、具体的な文にしてください。
このうち5番の手立ては、研究協議会でほぼ確実に聞かれる項目です。AIに複数出させて、自分のクラスで現実的に打てるものを選んでおくと、当日の質疑で詰まりません。
出てきた記述例は、そのまま指導案に載せる前に一度読み直してください。AIが書く「中学生が書きそうな文」は、実際の生徒より整いすぎている傾向があります。自分のクラスの記述の水準に合わせて調整すると、規準として機能します。
ステップ5:本時の展開を時間配分と発問に落とす
最後に、ステップ2で出た骨格を実際の50分に収めます。AIが出す時間配分は、ほぼ必ず楽観的です。「グループで話し合う(10分)」と書かれていても、指示を出して机を動かして話し始めるまでに3分は消えます。
展開表を詰めるときの確認点は3つです。
活動の切り替え時間が入っているか。プリント配布、グループ編成、机の移動、発表の準備。AIはこれらを時間として計上しません。切り替えが3回あれば、実質的な活動時間は10分近く減ります。
発問が生徒に届く言葉になっているか。AIの発問は書き言葉に寄ります。「この資料から読み取れる事象の因果関係を説明しなさい」を、実際に教室で言う言葉に直す作業が必要です。
評価の場面が展開表に書き込まれているか。ステップ4で決めた評価規準を、展開表のどの場面で見るのかを明記します。ここが空欄の指導案は、研究協議会で必ず指摘が入ります。
発問の言い換えだけは、AIに候補を出させると早く進みます。
次の発問を、中学2年生に口頭で問いかける言葉に言い換えてください。
5パターン出して、それぞれ「どんな生徒の反応を引き出しやすいか」を1行で添えてください。
【発問】【展開表の発問をそのまま貼る】
候補の中から選ぶ形にすると、自分ひとりで考えるより言い回しの幅が出ます。
提出前に人が確認する3点
仕上がった指導案を印刷する前に、次の3点だけは自分の目で確認してください。
指導要領の文言。AIが生成した文章の中に、指導事項や資質・能力の記述らしきものが紛れていないか。あれば原文と照合するか、削除します。AIは条文の言い回しを再現できますが、正確とは限りません。
固有名詞と数値。教材として扱う資料の年度、統計の数値、人名・地名の表記。指導案に載せた時点で参観者全員の目に触れます。この確認の考え方は、AI教材の品質チェックで扱っている観点と同じです。
個人情報。生徒の実態を書くとき、AIに渡す情報から氏名や個人を特定できる記述を外しておく必要があります。ステップ1で書き出す実態は、「記述が書けない生徒が多い」のように集団の傾向として表現してください。
研究授業が終わったあとに、もう一往復しておく
指導案は提出して終わりではなく、翌年の自分への資料でもあります。研究協議会で出た意見をメモしておき、その日のうちにAIに整理させておくと、次に同じ単元を担当するときの出発点になります。
研究授業後の協議会で出た意見のメモを整理してください。
【メモ】【走り書きをそのまま貼る】
次の3つに分類してください。
1. 次回すぐ直せること
2. 単元計画そのものを見直す必要があること
3. 意見が分かれていて、判断を保留すべきこと
分類しておくと、来年この単元を担当するときに、指導案をゼロから作り直す必要がなくなります。ステップ1で書き出す「生徒の実態」の欄も、前年の記録があると格段に書きやすくなります。
まとめ:AIに任せる部分と、自分で書く部分を先に決める
研究授業の指導案づくりでAIが効くのは、展開表の骨格、評価規準の具体例、発問の言い換え、協議会メモの整理といった、選択肢を並べる作業です。
一方で、教材観・生徒観・指導観と、評価のBとAを分ける線引きは、目の前の生徒を知っている人にしか書けません。ここをAIに書かせると、一般論の文章が残り、協議会での質疑に答えられなくなります。
- ステップ1:AIを開く前に、単元の位置づけと生徒の実態を30分で書き出す
- ステップ2:条件を一度に渡して展開の骨格を出す(指導要領の文言は自分が渡したものだけを使わせる)
- ステップ3:教材観・生徒観・指導観は、AIに質問させて自分で書く
- ステップ4:評価規準はB基準・A基準の記述例まで具体化する
- ステップ5:時間配分に切り替え時間を足し、発問を話し言葉に直す
次の研究授業では、まずステップ1の30分だけ試してみてください。AIに渡す情報が揃っているだけで、返ってくるたたき台の使える度合いが変わります。
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