「AIと英会話ができるらしい」と聞いて調べると、出てくるのは個人向けの学習アプリの紹介ばかりです。1人で使うぶんには便利そうに見えても、40人が座っている教室にそのまま持ち込めるかは、まったく別の問題です。この記事では、教員が授業としてAI英会話を設計するときの手順を、端末事情・時間配分・評価の3点から整理します。

授業に持ち込もうとすると詰まる3つのこと

AI英会話の授業を考えはじめると、たいてい次の3つで止まります。

1つ目はアカウントと端末です。1人1台端末が配られていても、生成AIサービスに生徒がログインできるとは限りません。校内のネットワークでブロックされている、管理者がアプリのインストールを許可していない、そもそも年齢制限に引っかかる、といった事情が重なります。

2つ目は音声環境です。40人が同時に端末に向かって英語を話すと、隣の声を音声認識が拾い、教室は騒音で会話にならなくなります。ヘッドセットが人数分そろっている学校は多くありません。

3つ目は評価です。生徒がAIと話した記録を、そのまま観点別評価の材料にしてよいのか。AIが付けたスコアを評定に使えるのか。ここが決まらないと、「やってみたけれど授業時間を使った意味を説明できない」状態になります。

逆にいえば、この3つを先に決めてしまえば、AI英会話は授業として成立します。順に見ていきます。

まず決めるのは「誰がAIを使うか」と「いつ使うか」

2行3列に並べた6枚のカードのうち、上段の教員側と下段の生徒側で色が分かれ、4枚にペン先・吹き出し・書類・時計のアイコンが描かれている図

AI英会話というと「生徒がAIと話す」場面だけを思い浮かべがちですが、実際にはAIの出番は授業の前後にもあります。誰が使うか(教員/生徒)と、いつ使うか(授業前/授業中/授業後)で整理すると、次のようになります。

授業前授業中授業後
教員が使うロールプレイのお題・モデル対話・ルーブリックを作る生徒の詰まりに応じた言い換え表現をその場で出す発話の記録を整理し、フィードバックの下書きを作る
生徒が使う事前に語彙・表現を確認するAIを会話相手にして発話量を稼ぐ自分の発話を振り返り、言えなかった表現を調べる

このうち、導入のハードルがいちばん低いのは左上の「教員が授業前に使う」です。生徒のアカウントも端末も要らず、明日の授業から始められます。そして効果も小さくありません。スピーキング活動が続かない原因の多くは、AIとの会話ができないことではなく、毎時間ぶんの題材と評価基準を用意する手間にあるからです。

生徒がAIと直接話す形は、その先の段階として考えるのが現実的です。

端末事情に合わせた3つの授業パターン

学校の環境は一様ではありません。自校がどれに当てはまるかで、設計できる授業の形が決まります。

パターンA:生徒は端末を使わない(教員だけがAIを使う)

生徒側の準備がゼロで済む形です。AIは教材をつくる道具として使い、授業そのものは従来どおりペアワークやグループ活動で進めます。

用意するのは、ロールプレイのお題、生徒に使わせたい表現を含んだモデル対話、活動を評価するルーブリックの3点です。この3点がそろっているかどうかで、ペアワークの中身は大きく変わります。お題だけ渡して「はい、3分間話して」と言うと、多くのペアは30秒で沈黙します。

パターンB:1人1台端末はあるが、生成AIにはログインできない

音声教材とワークシートをAIで作り、端末は再生と提出にだけ使う形です。教員のアカウントで作ったモデル対話を音声にして配布し、生徒はそれを聞いてシャドーイングしたり、続きの応答を考えたりします。

生徒がAIと自由に対話する形はとれませんが、「同じ題材を難易度別に3種類つくる」「聞き取りやすい速度と自然な速度の2種類を用意する」といった、人力ではやりきれない準備がAIで可能になります。

パターンC:生徒が生成AIを使える

生徒がAIを会話相手にして、1対1で話す形がとれます。発話量という点では最も効果が大きい一方、設計を誤ると教室が崩れるのもこのパターンです。詳しくは次のセクションで扱います。

自校がAかBの段階でも、後ろめたく思う必要はありません。文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(2024年12月26日公表)も、教職員が校務で使う場面と児童生徒が学習で使う場面を分けて整理し、それぞれにチェックリストを設けています。教員側の活用から始めることは、ガイドラインの構成とも矛盾しません。ガイドラインの中身はVer.2.0の変更点をまとめた記事で解説しています。

40人が同時に話さない時間割をつくる

パターンCで最も重要なのは、全員を同時にAIと話させないことです。40人が一斉に端末に向かうと、音声認識の精度が落ち、会話が成立しなくなります。

代わりに、クラスを3つに分けてローテーションさせます。50分授業の例を挙げます。

時間グループ1グループ2グループ3
0〜10分全体で題材の確認・使う表現のインプット
10〜22分AIと1対1で対話ペアで対話ワークシートで表現を整理
22〜34分ワークシートで表現を整理AIと1対1で対話ペアで対話
34〜46分ペアで対話ワークシートで表現を整理AIと1対1で対話
46〜50分全体で振り返り

AIと話すのは常に13人程度なので、教室の音量は現実的な範囲に収まります。ヘッドセットも学級全員ぶんは要りません。そして教員は、AIと話しているグループではなく、ペアで話しているグループの観察に回れます。ここが見落とされがちな利点です。AIは生徒が黙り込んでも待ってくれますが、ペア活動は教員が見ていないと崩れます。

待機時間のワークシートは、その時間のうちに終わる分量にします。「AIとの対話で言えなかった表現を3つ書き出す」「次の順番までに使う表現を2つ決める」といった、次の活動につながる課題が向いています。

教員側でAIに作らせるもの:お題・モデル対話・ルーブリック

ここからは実際のプロンプトです。まず、ロールプレイのお題をまとめて作ります。1時間ぶんではなく、単元ぶんをまとめて出させると、難易度の並びを調整しやすくなります。

高校1年生の英語コミュニケーションIの授業で使う、ペアのロールプレイのお題を10本作ってください。

・単元テーマ:【例:日常生活と健康】
・想定レベル:CEFRのA2程度
・既習文法:【例:現在完了、比較級まで】。これを超える文法は使わない
・1本あたり3分で終わる分量にする
・各お題に、AとBそれぞれの役割設定と、達成すべきゴール(何が決まれば終わりか)を書く
・10本を、やさしい順に並べる

ゴールを書かせるのがポイントです。「健康について話し合ってください」だけでは終わりが見えず、生徒は途中で止まります。「2人で来週の運動の予定を1つ決める」まで指定されていれば、会話が前に進みます。

次に、そのお題に対するモデル対話を作らせます。

上記のお題3番について、モデル対話を作ってください。

・A・Bそれぞれ5往復程度
・以下の表現を必ず含める:【例:Why don't we...? / That sounds good, but... / How about ...ing?】
・生徒が真似しやすいよう、1文を短く保つ
・対話の下に、生徒が詰まったときに使える言い換え表現を5つ、日本語訳付きで並べる

最後の「言い換え表現」は、机間指導で生徒に渡すためのものです。詰まっている生徒に対して、教員が毎回その場で英語を考えるのは負担が大きく、しかも生徒ごとにヒントの質がばらつきます。手元に一覧があると、この差が消えます。

なお、AIが生成した英文は文法的に正しくても、教科書の進度や既習語彙を超えることがあります。教材タイプ別のプロンプトと、教科書との整合性を確認する手順は英語教員のためのAI活用完全ガイドにまとめています。

スピーキングの評価はどこまでAIに任せられるか

1枚の用紙の左半分に同じ長さの印字された行が並び、右半分では各行が線で消され、その上に手書きの短い書き込みが加えられている図

結論から書くと、ルーブリックの下書きはAIに任せられますが、評定を付ける工程は人が担当します

学習指導要領の観点別評価では、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で見ることになっています。スピーキング活動をこの3観点に落とし込む作業は手間がかかりますが、たたき台をAIに出させると短縮できます。

高校1年生のペア・ロールプレイ活動(3分間、テーマは日常生活と健康)の評価ルーブリックを作ってください。

・観点は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つ
・各観点をA・B・Cの3段階で記述する
・Bを「おおむね満足できる」状態とし、そこからの差でAとCを書く
・録音を聞き返さなくても、その場の観察で判定できる書き方にする
・観点ごとに、判定に迷いやすい境界の例を1つずつ添える

出てきたルーブリックは、必ず自分の目で調整してください。AIが書く記述語は「流暢に」「積極的に」といった抽象語になりがちで、そのままでは判定がぶれます。「言いよどんでも自分で言い直して続けられる」のように、観察できる行動に置き換える作業が必要です。

一方、AIが出したスコアをそのまま評定に使うのは避けたほうが安全です。理由は3つあります。

音声認識は、日本語話者の英語やマイクの環境で誤認識を起こします。生徒が正しく言えていても文字起こしが崩れれば、評価は下がります。次に、発音や流暢さのスコアは、同じ発話でも実行するたびに揺れることがあります。そして最後に、評定は生徒と保護者に説明できる必要があります。「AIがそう判定したので」は説明になりません。

AIとの対話ログは、評定そのものではなく、評定の根拠を思い出すためのメモとして使うのが現実的です。誰がどの表現でつまずいたかを後から確認できるだけでも、フィードバックの質は上がります。

導入前に確認する4つのこと

生徒にAIを使わせる形(パターンC)に進む前に、次の4点を確認しておきます。

1. 年齢制限と利用規約 サービスごとに条件が違います。ChatGPTは13歳以上で、18歳未満の利用には保護者の同意が必要とされています。Claudeは18歳以上が対象です。高校生でも1年生は15歳前後ですから、「高校生だから大丈夫」とは言えません。学校向けのアカウント種別では条件が異なる場合もあるため、導入時点の規約を必ず確認してください。

2. 個人情報を入れない運用 生徒の氏名、学籍番号、成績、家庭の事情などをAIに入力しない、というルールを活動の前に周知します。自由に会話させる活動では、生徒が自分の個人情報を話してしまう可能性があります。「本名や住所は言わない」「架空の設定で話す」ことをルールとして最初に伝えておくと安全です。

3. 記録の扱い 対話ログをどこに保存し、いつ消すのかを決めておきます。端末に残したままにすると、次に使う生徒が見られる状態になることがあります。

4. 校内での合意 英語科と情報担当、管理職に、目的・使うサービス・上記のルールを共有してから始めます。1人で先行して始めると、問題が起きたときに個人の責任になります。校内ガイドラインがある学校では、それに沿った手続きを踏んでください。

まとめ:AIは会話相手である前に、準備の道具

AI英会話を授業に入れるときの設計手順を、もう一度整理します。

  • 段階を分ける:まず教員が授業前に使う。生徒がAIと話す形はその次の段階
  • 端末事情から逆算する:AかBの環境でも、AIで作った題材とルーブリックがあれば授業は変わる
  • 同時に話させない:3グループのローテーションで、AIと話す人数を常に3分の1に保つ
  • 評価は分担する:ルーブリックの下書きはAI、記述語の調整と評定は人
  • 始める前に4点を確認する:年齢制限・個人情報・記録の扱い・校内の合意

現場で効いてくるのは、派手なAI活用ではなく、毎時間ぶんのお題とモデル対話とルーブリックが手元にそろっている状態です。そこまで用意できていれば、生徒がAIと話せる環境かどうかにかかわらず、発話量は増やせます。

とはいえ、単元ぶんのお題を出させ、既習語彙の範囲に収まっているか確認し、ルーブリックの記述語を観察できる言葉に直す工程は、慣れても1単元あたり相応の時間がかかります。この準備部分を外に出すという選択肢もあります。AIによる生成と人間によるチェックをセットで行う教材作成代行なら、学年・単元・既習事項を指示書として渡すだけで、確認済みのロールプレイ教材とルーブリックを受け取れます。

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まずは次の単元のお題10本を作らせるところから試してみてください。ペアワークの沈黙が短くなるだけでも、授業の手応えは変わります。