現代文の読解プリントを1枚作ろうとすると、いちばん時間を取られるのは設問づくりではありません。その手前にある「本文をどこから持ってくるか」です。手元の問題集から拝借するのは気が引ける。かといって適当な文章が見つからない。そこで止まったまま、結局いつもの市販教材をコピーして配っている、という方は多いのではないでしょうか。

国語の読解教材は、本来ChatGPTのような生成AIと相性のよい領域です。設問の型がある程度決まっていて、選択肢のダミーづくりや語彙問題の量産は、AIが速く大量にこなせる作業だからです。ただし国語には、他教科にはない落とし穴が2つあります。本文の著作権と、「本文に書かれていないこと」を答えにしてしまう設問です。

この記事では、本文の調達方法から設問のプロンプト、配布前のチェックまでを順に扱います。

国語の読解教材づくりでAIがつまずく2つの場所

つまずきは入口と出口の両方にあります。

入口は本文です。教科書に載っている評論や小説、市販問題集の本文をそのままコピーしてAIに貼り付ける。これがいちばん手軽な手順ですが、同時にいちばん判断が難しい行為でもあります。

出口は設問と本文の対応関係です。AIが作った設問は、見た目には自然な国語の問題に見えます。ところが解答の根拠を本文で探すと、どこにも書かれていない。抜き出し問題の指定字数と模範解答の字数が合わない。傍線部として示された一文が、本文と微妙に違う言い回しになっている。こうしたずれが起こります。

数学であれば、計算が合っているかどうかで誤りを機械的に判定できます。国語の設問には、そうした自動判定の手段がありません。だからこそ、本文の調達方法と設問の作らせ方を、あらかじめ設計しておく価値があります。

教科書や問題集の本文を、AIに入力していいのか

まず前提を整理します。著作権法第35条は、営利を目的として設置された機関を除く学校などの教育機関で、授業の過程における複製・公衆送信を一定条件のもとで認める規定です。教科書に載っている評論の一節をプリントに印刷して自分のクラスに配る行為は、この条文が根拠になります。

問題は、その本文を外部のAIサービスに入力する行為が、同じ枠組みで説明できるかどうかです。

文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は、令和6年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめました。この整理では、AIをめぐる著作権法の適用が、モデルを学習させる「開発・学習段階」と、AIを使って生成物を作り利用する「生成・利用段階」に分けられています。開発・学習段階については情報解析を定めた第30条の4が主に扱われる一方、生成・利用段階で既存の著作物を入力する場面については、第47条の5の適用可能性などが論点として挙げられており、第35条だけで当然に説明が付く行為とは整理されていません。

法的な議論とは別に、実務上のリスクもあります。ChatGPTなどのサービスでは、入力した文章が外部のサーバーに送信され、設定によっては学習データとして利用される可能性があります。校内のガイドラインで外部サービスへの入力範囲が定められている学校も増えています。

そこで、次のように行為を分けるのが安全です。

  • プリントに本文を載せる(複製)→ 授業の過程であれば第35条の範囲で検討できる
  • 本文をAIに入力する → 既存著作物では行わず、AIには設問の条件だけを渡す

なお、学習塾・予備校は第35条の適用対象外です。条文が対象を「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)」と定めているためで、塾で読解教材を作る場合は、既存作品を本文として使う運用そのものを避ける必要があります。第35条の範囲や、教材づくりでやってはいけない具体例は、AIで作った教材の著作権リスクに詳しくまとめています。

著作権を気にせず使える本文を用意する3つの方法

保護期間満了の作品・AI生成の文章・自作の文章という3つの調達経路が1枚の読解プリントに集まる様子

既存作品を入力しないという方針を取ると、本文は次の3つのどれかから用意することになります。

1つ目は、著作権の保護期間が満了した作品です。2018年12月30日の法改正で保護期間は著作者の死後50年から70年に延長されましたが、この延長は遡って適用されません。そのため、1967年末までに亡くなった作家の作品は保護期間が満了しています。夏目漱石、森鷗外、芥川龍之介、宮沢賢治といった作家の作品が、青空文庫で公開されています。

ただし用途は選びます。小説・随筆の読解練習には使えますが、旧字・旧仮名遣いの底本が使われている作品もあり、そのまま高校1年生に配ると読解以前の負荷がかかります。また、大学入試で主流の現代的な評論文とはジャンルが異なるため、入試対策の演習には向きません。

2つ目は、AIに本文そのものを書かせる方法です。評論文・説明文の読解練習では、これがもっとも実用的です。重要なのは、書かせる前に「設問で問える構造」を条件として指定することです。

高校1年生向けの読解練習用に、評論文を1本書いてください。

・テーマ:都市の風景と記憶
・字数:1200字程度
・段落構成:5段落。第3段落に筆者の主張の転換点を置いてください
・第2段落に具体例を1つ入れ、それが第4段落の抽象的な主張と対応するように書いてください
・指示語(それ・こうした)を、指す内容が本文中で特定できる形で3箇所使ってください
・専門用語は使わず、高校1年生が辞書なしで読める語彙で書いてください

転換点・具体例と主張の対応・指示語を先に仕込ませておくと、あとから設問を作るときに問える箇所が自然に確保されます。何も条件を付けずに「評論文を書いて」と頼むと、平板で山場のない文章が返ってきて、設問が作れません。

3つ目は、自分で書いた文章や、利用条件が明示された文章を使う方法です。白書や統計資料の解説文など、官公庁が公開している文章には利用条件が示されているものがあります。使う前に必ず各サイトの利用規約を確認してください。

設問をAIに作らせるプロンプト

本文が用意できたら、設問づくりに進みます。ここからは本文をAIに渡した状態が前提です(保護期間満了の作品、AIに書かせた本文、自作の文章のいずれか)。

設問はタイプごとに指示を分けたほうが精度が上がります。まとめて「設問を5問作って」と頼むと、同じ段落ばかりを問う偏った問題群になりがちです。

(ここに本文を貼り付け)

上の本文をもとに、高校1年生向けの読解設問を作ってください。

・問1:傍線部の理由を60字以内で説明させる記述問題
・問2:指示語「それ」が指す内容を、本文中から20字以内で抜き出させる問題
・問3:筆者の主張に合致するものを4つの選択肢から選ばせる問題
・問4:本文中の語句から、文脈で意味を推測させる語彙問題を2問

傍線を引く箇所は、本文の該当部分をそのまま引用して明示してください。
各設問には、解答の根拠となる本文の箇所を引用して添えてください。

最後の1行がこのプロンプトの肝です。根拠の引用を必ず出させておくと、次のチェック工程で「その根拠が本文に実在するか」を照合するだけで済みます。根拠を添えさせないと、模範解答が正しいかどうかを一から自分で読み直すことになります。

選択肢問題は、正解よりも誤答の作りが難しい部分です。追加でこう指示します。

問3の誤答選択肢それぞれについて、「なぜ誤りか」を本文の記述と対応させて説明してください。
本文に書かれていない内容を根拠にしている選択肢があれば、指摘したうえで作り直してください。

「本文に書かれていない内容を根拠にしていないか」を自己点検させると、常識的には正しいが本文には書かれていない、という質の悪い誤答をある程度減らせます。

国語特有のハルシネーション|「本文にない答え」が生まれる仕組み

本文と設問の2枚を並べ、赤い糸と丸印で解答の根拠のずれを照合するようす

自己点検をさせても、誤りは残ります。国語の読解教材で起きるハルシネーションには、決まった型があります。

抜き出し問題の字数が合わない。「20字以内で抜き出せ」という設問に対して、模範解答が23字になっている。大規模言語モデルは文章を1文字ずつ数えているわけではないため、字数指定の精度は高くありません。指定字数を含む設問は、必ず数え直します。

傍線部が本文と一致しない。設問に示された傍線部の文が、本文の表現と微妙に違う。AIが引用の途中で語尾や助詞を書き換えてしまうケースです。生徒は本文中に該当箇所を見つけられず、解答不能になります。

正解の根拠が本文にない。選択肢の内容が、一般論としては筋が通っているのに、本文にはそう書かれていない。AIが学習データ由来の一般知識で解答を補完してしまうために起こります。国語の設問としてはもっとも致命的な誤りです。

配布前のチェックは、次の3手順で機械的に済ませます。

  1. 抜き出し問題の解答と傍線部を、本文の文書内検索(Ctrl+F / Command+F)にかけ、完全一致するか確かめる
  2. 字数指定のある設問は、エディタの文字数カウントで模範解答の字数を数え直す
  3. 選択肢を1つずつ、「本文の何段落目に書いてあるか」で確認する。特定できない選択肢は差し替える

いずれも1問あたり数十秒で終わります。この3手順を飛ばしたプリントを配ると、授業中に「先生、これ本文に書いてないです」と指摘される事態になります。AI生成物のチェック全般の手順は、AIが生成した教材を使う前のチェック方法にまとめています。

記述問題の採点基準までAIに書かせる

読解教材でもう1つ手間がかかるのが、記述問題の採点です。「どこまで書けていれば何点か」を先に決めておかないと、返却時に生徒への説明ができません。採点基準の作成も、AIに下書きさせられます。

問1(60字以内の記述問題)の採点基準を作ってください。

・満点を6点とし、解答に必要な要素を3つに分けて各2点で配点してください
・各要素について、生徒の解答例を「認める例」「認めない例」に分けて1つずつ書いてください
・部分点を与えるかどうかの境目が、採点者によってぶれない書き方にしてください

さらに、誤答の予測まで出させておくと、解説の準備が楽になります。

この設問で、高校1年生がやりがちな誤答を3つ予測してください。
それぞれについて、本文のどこをどう読み違えた結果そうなるのかを、本文の記述と対応させて説明してください。

返ってきた誤答予測は、そのまま授業の解説に使えます。実際に生徒が書いた誤答と照らし合わせると、予測が外れている部分に、そのクラス固有のつまずきが見えてきます。

まとめ:本文と設問で、AIに任せる範囲を分ける

国語の読解教材づくりでは、工程によってAIとの付き合い方を変えるのが現実的です。

  • 本文:著作権の判断が必要な部分。教科書や市販問題集の本文はAIに入力しない。保護期間が満了した作品、AIに条件付きで書かせた文章、自作の文章から選ぶ
  • 設問:AIが得意な部分。設問タイプごとに指示を分け、解答の根拠を必ず引用させる
  • チェック:人が担当する部分。抜き出しの完全一致、字数、選択肢の根拠の3点を機械的に照合する
  • 塾での利用:著作権法第35条の対象外。既存作品を本文に使う選択肢は最初から外す

この流れを1枚ごとに回すと、慣れても相応の時間がかかります。特に、本文の出所を確認し、設問と本文の対応を照合する工程は、プロンプトをどう工夫してもAIに任せきりにはできません。

その部分を外部に預けるという選択肢もあります。AIによる生成と人間によるチェックをセットで行う教材作成代行なら、単元・学年・設問のタイプを指示書として渡すだけで、著作権の確認と本文照合まで済んだ読解プリントを受け取れます。

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国語の読解教材は、AIに丸投げすると危うく、丸ごと自作すると時間が足りない領域です。本文と設問で任せる範囲を分けるところから始めてみてください。